asylum piece

全ての創作物についてのあれこれ

なんか最近熱そうなジャンル、Jumpstyleについて。重厚でド迫力なビートを体感しよう。

こんにちは。

 

今回は最近熱そうなジャンルについて書いていこうかなと思います。と言っても、私がそう思っているだけで別に熱くないかもしれませんが、そこはまあ。

それで紹介するジャンルの名前はというと、Jumpstyleといいます。

同名のダンスステップがあるため、これをジャンルではないと思っている人もいるみたいですが、歴とした音楽ジャンルの一つです。

ちなみにJumpstyleの音楽に合わせて踏むステップがJumpstyleなので、ジャンルとステップという違いはあれどこの二つはとても密接な関係です。

 

初めに言っておきますと、今回はジャンルの関係上EDMのややこしい関係に少し触れます。なのでそういうめんどくさいのに興味がない方はいつも通り曲だけでも聴いていってください。聴くうえで必要な話でもないので。

では早速、一曲聴いてみましょう。

 

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重く歪んだ力強いキックと唸り続けるベースが曲を牽引していきます。短い故に展開の起伏はありませんが、兎に角ダークな雰囲気と重厚でド迫力なビートに圧倒されてしまいます。

複雑な要素はほとんどないのに聴いていて飽きがこないどころか、何度でも聴きたくなる。ダンスビートとしてはかなり遅いですが、気が付けば身体が揺れてしまっています。偏にそれはシンプルが故にビートがより目立つからでしょう。

 

どうでしょうか。

滅茶苦茶かっこいいですよね。これがJumpstyleです。

Jumpstyleと言えばまず特徴的なキックでしょう。

重く、力強さがありますが、硬すぎるわけではなくやや力の抜けた感じがあります。このキックが四つ打ちで鳴らされるのがJumpstyleの何よりの特徴です。

次にシンセやベースによるエンジンのように唸る音。これによってキックの迫力に拍車をかけています。BPMは大体150前後で、近年の高速化が続くダンスミュージックの中では比較的ゆったりしています。

このジャンルはよくHardstyleと混同されがちです。聴き比べると違うのは何となく解るんですけどね。

 

Hardstyleとはこんなのです。(Euphoric Hardstyleですがサブジャンルという事で)

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HardstyleはJumpstyleよりも人気のあるジャンルです。というかEDMの中でも絶大な人気を誇るジャンルの一つです。特徴としては150前後のBPM、歪みのある力強いキック、そして唸るようなシンセ。

Hardstyleはサブジャンルが多いので一概にこうとは言えませんが、今挙げた特徴は大体のHardstyle曲に共通する王道なものだと思います。

これだけ見れば全く違いが無いように思えますね。

何故ここまで似通っているのか。それを説明するために、本当にざっくりとジャンル成立の流れを説明します。

と言っても、この辺の流れに関しては諸説あり、人によって言っていることが違う事がザラにあります。音楽ジャンルでは良くあることですね。

そもそもジャンルの成立や変化には複数のジャンルの影響が同時多発的に起きたり、国ごとに別の変化をしていくものなので、「○○が起源で○○の影響を受けた」なんて一言で言い表すのは土台無理な話なのですね。

なのでここでの説明も話半分くらいに聴いておいてください。

 

Hardstyleはオランダで生まれたジャンルですが、遡っていくと同じオランダで生まれたGabbaというジャンルから始まります。当時のシーンではGabba=Hardcoreとして広まり、そこからさまざまなHardcoreサブジャンルに発展していきます。

そのサブジャンルの一つがNustyle Gabbaです。

これは高速化が進んでいたGabbaに対して、テンポを下げてみるというアプローチが用いられたジャンルです。名前の通り、当時出てきた新しいスタイルの総称でもありました。

その中から生まれたのがEarly Hardstyleです。

このEarly HardstyleはイギリスのHard House、ドイツのHard tranceと共にHard Danceとして纏められます。Hardstyleの起源をHard Danceだという人がいるのはこれが原因だと思われます。

こうして纏められたことから判るように、これらのジャンルのファンはかなり入り混じっており、ジャンルとしても影響を受けたり与えたりしていました。Hard tranceとHard Houseの影響によってついにHardstyleが誕生します。

Hardstyleは他のHardcoreサブジャンル等の影響を受けて少しづつサブジャンルへと枝分かれしていき、今のHardstyleへと繋がっていきます。

さて、肝心のJumpstyleですが、実はHardstyle誕生からそれほど立たずに誕生します。というかほぼ同時期です。

Hardstyleが生まれてから程なく、今度はChicago houseの影響を受けてオールドスクール回帰が起こります。要はよりシンプルにしようというアプローチです。これによって誕生したのがJumpstyleという訳です。

この二つのジャンルが似ているのは単純に、HardstyleからJumpstyleが分化、派生したからなのですね。

 

本当にざっくりとした説明でしたね。実際はもっと複雑な背景等ありますので、気になった方は調べてみてください。

 

少し長くなったので休憩がてらに一曲。

 

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最初の曲に比べるとダンスミュージックらしい軽やかさがありますが、ビートの勢いは全く変わりません。ただ重いだけでなく、所々で面白い音を取り入れることでビートとのギャップが生まれています。

所々に入る「ポイーン」という気の抜けたサンプリングは最初に紹介した曲でも使用されています。こういう共通点があるのも音楽の面白さの一つですね。

さて、何故わざわざジャンルの成り立ちというめんどくさい話をしたのかというと、JumpstyleとHardstyleいかに近しい存在かを知ってもらったうえで、その区別の仕方を説明したかったからです。

この二つは同じNustyle Gabbaの文脈を持っているため、基本的な特徴が似通るのは当然です。そのうえでこの二つを分けるのは回帰を受けたことによる「シンプルかどうか」という点です。

聴き比べると解るのですが、Hardstyleには曲としてしっかりとした「展開」があります。所謂ビルドアップとかドロップとかですね。

対して「シンプル」を求められているJumpstyleには展開らしい展開が少ない傾向にあります。曲自体も短いものが多いです。

あとはキックです。同じ歪んだキックですが、Hardstyleが芯のある硬さを持っているのに対してJumpstyleは少し力の抜けた音です。

ただこれは、アーティストや曲によって結構変わってしまうものなのでこれだけで判断するのは非常に難しいというかややこしいです。なので、あくまで判断材料の一つとしてみた方が良さそうです。

 

さて、色々と書いてきましたが話をメインのJumpstyleに戻しましょう。

最初にも言った通り、最近Jumpstyleが熱そうな気がしています。

根拠なんですが、ここ一年あたりに投稿されたJumpstyleの曲の再生数が非常に良く伸びているんですね。先に紹介した二曲もそうです。そして面白いのが、それらの曲のスロウバージョンがさらに伸びているという所です。

これと

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これですね。

 

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後これもそうです。

 

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あまり調べていないので理由は解りませんが、いくつか思いつく理由はあります。

・展開がシンプルなので、スロウにした際ビートの迫力がより増すから。

・Nustyle Gabbaの文脈から、さらにBPMをさげている。

・ダンス練習のためスロウバージョンが重宝されている。

 

最後なんかは絶対違う気がしますが、真相は不明です。ですがまあ、とても面白いのでそんなのはどうでもいいですね。

とりあえず、今のところはこれからの展開に期待といったところでしょうか。

 

本当は何回かに分けるつもりだったものを一緒にしたので、文字数が多くなってしまいました。

なので今回はここまで。Hardstyleについてもいつか書くかもしれません。

最後に何曲か紹介して終わりにしましょう。

 

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ゆっくりボイスから始まり、重いビートと共に浮遊感のあるシンセが展開される。所々に入る音が曲にSFチックな印象をもたらしている。

 

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Hard Dance界ではかなりの知名度を誇るScooterの一曲。Jumpstyleのステップが広まる切っ掛けとなったこの曲を紹介しないわけにはいかない。

 

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只管カッコいい。中盤まで溜めてからのド迫力のビートはかつてない程の解放感。

 

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純粋なJumpstyleというよりは、Hard Houseが混じっている感じ。でも好きなので紹介。

 

 

 

カッコいいですよねぇ、Jumpstyle。最近は聴いていませんでしたが、やはりいジャンルです。

文字数の関係で最後は駆け足でした。なのでまたいつか話題に取り上げるかもしれません。まだまだ名曲は沢山有りますので、気に入った方は自分で調べてみてください。最高のビートに出会えるはずです。

郷愁とまだ見ぬ世界観、後ろ暗さとそれでも前に進む誰かの詩。Gyosonの暗晦で流麗な音楽を聴く。

こんにちは。

 

音楽は時に様々な感情を呼び起こすものです。

特に歌詞が有る曲は、その詩に込められた思いやストーリーが聴く人の心を揺さぶります。

楽しさや悲しさ、切なさに喜び。もっと具体的に言うなら、日常の美しさや失恋のやりきれない思い。何かを無くした絶望と、それらを飲み下してでも生きるという事に対する賛歌。

本当にいろんなものが有りますよね。

 

今回紹介するのは、聴く人に後ろ暗さと郷愁を同時に想起させる特異な詩を書くアーティスト、Gyosonです。

 

彼はもともとトーマという名前でボカロをやっており、絶大な人気を誇っていました。トーマは人気の絶頂で活動を休止し、それからは数年間何の音沙汰もありませんでした。

そんな中急にGyosonとして活動を開始したという訳です。

ですがGyosonとトーマは音楽的なあらゆる面で違う方向性をしているため、全く別のアーティストとして扱うべきだと思います。

先ずは一曲聴いてみましょう。

 

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トラップらしく刻まれるハイハット、重厚なベースに空気を含んだシンセ。ぼんやりとした音で作り上げられた繊細な雰囲気に、センスの塊のような語彙が研ぎ澄まされた詩が乗っています。

ゆったりとした心地よさの反面、歌詞に込められた思いは後ろめたさを孕んだ郷愁です。まるで誰かの独白を聴いているかのような流麗な歌詞は、他のアーティストとは一線を画しています。

 

この曲を初めて聴いた時の衝撃たるや、今でも忘れられません。

私も色々あって故郷を飛び出した人間です。もう二度と帰るものかと言い放った土地ではありますが、今でもあの景色を夢に見ることが有ります。きっと心のどこかではあの場所のことを忘れられないのかもしれません。

この曲の歌詞が、故郷に対して複雑な感情を持っている自分と重なってならなかったのですね。

多分、一生忘れられない曲だと思います。

Gyosonの曲は過去への後悔やどこかの土地へに対する後ろめたさみたいなものが多く描かれています。過ぎ去った後悔は不変のままで、そのことを淡々と歌うと同時に、それを引きずりながらも前へ進もうとする意志が込められています。

こういう、後ろ向きに希望や祈りを歌う姿が私には刺さりましたし、少し背中を押されているような気にもなりました。「俺は少しずつ前に進んでいるぞ。お前はどうだ?」と。

まあ、私が勝手にそう思っているだけですが、音楽をどう受け取るかというのは聴き手次第ですからね。そこは我々作り手が関与すべき場所ではないと思いますし。

 

少し自分語りが混じってしまいましたね。ここからは切り替えていきましょう。

Gyosonの素晴らしい所は、やはり語彙のセンスでしょう。歌詞からにじみ出る情念がありありと伝わってきます。それでいながら韻の踏み方も美しい。

曲によってはハングルを使ってまで韻を踏んでいることから、彼の詩に使われた語にはそれを選択した意味が込められていることが解ります。それもまた詩の重みを感じさせる一つの理由でしょう。

次に徹底して作り上げられた世界観です。

彼の作品は詩、サウンドだけではなくアートワークまでこだわって作られているのが解ります。どこか古めかしい空気を持ちながら偶像的なアイコン、浮世離れした空間を切り取ったかのようなフォト。

アートワーク単体で見ても完成されたGyosonの世界観がそこにはあります。彼の音楽から感じ取れる情念が、そのアートワークからも感じ取れるのが解ると思います。

これらが合わさることで、まさに唯一無二といっていい洗練された一つの作品に昇華されているわけですね。

この曲なんかは特に凄いです。

 

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畳みかけるように投げかけられる歌詞に圧倒されます。サウンドは柔らかな音が多く使われていますが、サビの直前ではしっかりと盛り上がる為に迫力のある音が使われています。

軽やかでありながら、重みもある。すべてが淀みなく流麗に流れて行く。そんな不思議な曲です。

アートワークも圧巻です。

全体的に暗い雰囲気ですが、要所では印象的な見せ方の光が差し込みます。様々な用途不明なアイコンが現れては消えていき、本当に現実の空間なのかと思うほどに不可思議です。

そりゃあ、こんなの作っていたら時間が掛かりますよね。

 

Gyosonの音楽は本当に独特です。

陰のある歌詞を軽やかに歌いこなす彼の声。明るさと暗さの両方を絶妙に行ったり来たりするサウンドは、浮遊感を持ちながら安心感もあります。そして、そんな音楽を体現するかのようなアートワーク。

一分の隙もなく自身の作品を作り上げようとする彼の音楽にかける情熱には、畏敬の念しかありません。

 

そんな素晴らしい音楽をもっと聴きたいのですが、残念ながら彼の更新はスローペースです。まあ普通に考えてあんなクオリティの作品をポンポン出せるわけないので当然ではありますが。

Gyosonのディスコグラフィはシングルを除けばEPが一枚だけです。

一応説明しておきますと、EPというのはシングルとアルバムの中間くらいの曲数が収録された販売形態のことです。

とはいえ音楽関係特有の定義が曖昧な言葉の一つですので、アーティスト等によって扱いは違ったりします。

一般的に言うなら3~6曲ぐらいを目安にEPとしているのではないかと思います。

 

Gyoson唯一のEP「GONETOWN」も6曲で構成されています。

そのうちの半分は未発表曲ですが、この中に私一押しの一曲が有ります。

 

それが「流刑地」という曲です。

 

サビのリズミカルさも素晴らしいのは言うまでもないですが、何より大切な人のいなくなった世界を流刑地と例える歌詞のセンスに脱帽です。

どれだけ絶望しようとも、大切な人との記憶によって生かされている。彼によって紡がれる、後ろ向きながらも力強い詩の美しさには心が揺さぶられてしまいます。

他の曲も当然素晴らしいので、是非聴いてもらいたい一枚ですね。

 

いつかライブとかやってくれないかなぁ……。

 

今回はここまで。何曲か紹介して終わりにしましょう。

 

 

 

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Gyosonの歌詞は過去への後悔を歌ったものが多いが、この曲は同時に強い祈りを感じる。揺蕩うかのような優しい音とビートがそれを包み込んで不思議な感覚を生み出している。

 

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サビの心地よく伸びるボーカルが歌詞とマッチし美しい。リバーブのかかったサウンドが、過ぎ去った過去をリバイバルしているかのような雰囲気を作り上げている。何より、韻の踏み方が異次元。

 

 

まさしくエモーショナル。

どれだけ言葉を尽くそうとも彼の音楽を表すには足りませんね。

ちなみにTwitterでは未発表の曲の一部が投稿されているので覗いてみてください。私はそれを聴きながら新曲を待つことにします。

それでは。

 

私にとってのNNI

こんにちは。

 

今回紹介するのは、ニコニコ動画というプラットフォームでニコニコインディーズとタグ付けされた音楽、通称NNIについて書いていきます。

ニコニコ出身の音楽といえばまず第一にボカロが思い浮かびますね。

今日本を代表するトップアーティストたちを見てみれば、ボカロ出身のアーティストは珍しいものではありません。ボカロ文化が音楽シーンに与えた影響の大きさは計り知れないものになっています。

ニコニコ動画では他にも東方アレンジだったりと、結構色んな音楽文化が生まれていたりします。

プラットフォームに付随する音楽というのは当然その特色が色濃く出るわけですから、ニコニコ動画ではNerdcoreのようなアニメ色の強い音楽が多いです。まあ見たまんまですね。

今回紹介するNNIはどうなのかというと……ものによるとしか言いようが有りません。

 

とりあえず一曲聴いてみましょう。その方が早いですからね。

ニコニコ動画の文化なので本来ニコニコのものをリンクするべきなのでしょうが、ブログの性質上Youtubeの方が聴きやすいのでそちらのリンクを張ります。純粋に音楽を聴くうえではコメントは邪魔ですしね。

ですが、流れるコメントを見ながら曲を聴くのもまたNNIらしい面白さですので、曲が気に入った方はニコニコの方も是非覗いてみてください。

 

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どうでしょうか。

ニコラップのレジェンド、VACONの一曲です。

ニコニコ動画のイメージで聴いた方は驚いたのではないでしょうか。ゴリゴリのラップですが、歌詞を見ながらでも追うのが難しいほどにボーカルが滑らかです。サウンドも胡散臭さというか、妖しい雰囲気が漂っています。

兎に角ボーカルに圧倒される、ボーカルの為の音楽。そんな感じがします。ラップのことが全く分からない人でも楽しめる牽引力が有ります。

 

この曲はNNIタグと同時にニコラップのタグも付けられています。ニコラップはその名の通りニコニコに投稿されたラップですが、ここで誕生して今でも活躍するアーティストは数多くいます。

正直その人たちについても滅茶苦茶語りたいのですが、残念ながら今回の本題ではないので気になった方は自分で調べてみてください。意外な名前に出会えると思います。

 

さて、話をNNIに戻しましょう。

最初に紹介したのはラップですが、NNIは別にラップ限定のタグではありません。

NNIはボカロ等の陰に隠れた、そのジャンルに属さない音楽を発掘するために生まれました。言わばボカロや東方アレンジなどに対する「その他」の音楽という訳です。

そのためNNIはかなり幅の広いタグとして扱われ、様々な音楽ジャンルを内包しています。その中にラップなども含まれているという事です。

ちなみにNNIと書いていますが、正式にはNNIオリジナル曲というのが正しいです。NNIだけだとリミックスやアレンジ等も含まれますので、オリジナル曲だけを扱うタグとして「NNIオリジナル曲」というタグが生まれました。

この辺の流れはニコニコ大百科を見た方が早いので、気になった方は覗いてみてください。

 

さて、NNIが多数の音楽ジャンルを含んだ広いタグであるのは解ったと思います。

NNIのアニメ色が強いかどうかは物による、と最初に行ったのはそれが理由ですね。ラップなんかは当然薄いですが、中にはアニメMVの作品も当然含まれますので本当に作品次第といった感じです。

 

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ボカロPでありながらNNIでも精力的に活動するアーティスト、Taskの一曲です。チップチューンのようなBit系シンセが持つかわいらしい音を、見事にシリアスな雰囲気へと昇華させています。

サウンドは華やかでありながらシリアス、歌詞を見てみればとんでもなくドロドロとしています。なのに暗すぎない。とても優れたバランスで成り立っている面白い曲です。

 

この曲のようにアニメMV等のアートワークが用いられている作品もNNIには多く含まれているわけですね。

ここまでNNIがどんなものか書いてきましたが、注目すべきはNNIが別にジャンルではないという事です。

私にとってNNIとは様々な宝石が詰まった宝箱です。

NNIがニコニコ動画に埋もれている、日の目を見ない音楽を見つけやすくするために作られたというのはすでに話しましたね。これは非常に素晴らしく、有益なことです。

実際にニコニコでは、ボカロ以外のオリジナル曲はあまり注目されていない印象です。それは再生数なんかに現れています。ですが、中にはセンスのある面白い曲が沢山有ります。

それらが人の目に触れる切っ掛けとなる。こんなに有り難いことはありません。私も、実際にNNIオリジナル曲のタグを巡って知った名曲は沢山有ります。

それらはジャンルもバラバラですので、固定のジャンルを巡っていただけでは決して知りえないものでした。

だから、私にとってNNIは宝箱なのですね。それも様々なジャンルが詰まった。

是非、皆さんもその目で確かめてみていただきたいです。思いもしなかった音楽と出会えるのではないかと思います。

 

という訳で、今回はここまで。最後にお勧めの曲をいくつか紹介しますので、宝さがしの参考になればと。

 

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柔らかなギターで構成された、緩やかな一曲。注目すべきは縛りが設けられた歌詞。音楽はサウンドだけではなく、詩で遊び心を発揮することもできる。だから面白い。

 

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バンジョーとカズーイの大冒険というゲームのBGMから強い影響を受けているアーティストによる一曲。こんな強烈な個性が埋もれていることに驚きを隠せない。

 

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人気のボカロPぬゆりによるインストミュージック。彼といえばエレクトロスウィング。例に漏れずこの曲もひたすらお洒落。ニコニコの方のアートワークがなんか良く解らないが曲と合ってて好き。

 

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先ほど紹介したTaskによる、今度はインスト曲。まずタイトルがいい。その名に恥じない若くエネルギッシュな雰囲気が、しっかりとメリハリのある構成で演出されている。

 

 

 

いやぁ、面白いわぁ~。

これらはNNIのほんの一部ですので、気に入った方は是非是非自分でも調べてみてください。きっとあなたの好みに刺さる音楽と出会えるはずです。

道尾秀介のボドゲとか米津玄師の新曲とか。

こんにちは。

 

偶には個人ブログらしく個人的な話でもしようかなと思います。

特にテーマを決めて話すわけでもないので、あっちこっち話が行くかと思いますが、まあ適当に読んでいただけたらと。

 

さて、今月ですがとんでもない曲がリリースされましたね。

 

米津玄師の「IRIS OUT」です。

 

いやぁ、凄いですね。どんな賛辞も陳腐に成り下がるくらいには。

 

一ファンとしての純粋な畏敬と、音楽で生きている人間としての悔しさでもう私の内心はぐちゃぐちゃです。

他人の曲を聴いて悔しいと思う事は人生で何回かありましたが、悔しさで体調を崩したのは初めてです。寝たら治りましたけど。

 

ああ、悔しー。

 

私程度が彼と比べて悔しがるなんておこがましいと思われるかもしれません。ですが私にとって米津玄師というアーティストは本当に特別な存在というか。

 

まあ、勝手にこっちが複雑な感情を抱いているだけですね。いつかその辺りのことも書こうかと思います。いやでも、あまりにも個人的な話すぎて書かないかもしれません。

 

そんなことはどうでもいいです。

「IRIS OUT」です。

 

死ぬほどかっこいい。個人的な印象ですが、米津玄師といえば昔から変な音をよく使うアーティストです。それらは曲中に溶け込むことはなく、違和感というアクセントでもって曲を装飾することもあれば、違和感なく組み込まれていることもあります。

例えば有名なLemonの「ウェ↑」とかは違和感のパターンですし、ゴーゴー幽霊船の荒ぶるギターは組み込まれているパターンです。

こういう変な音を使うのってとても難しくて、普通だったらただのマイナスにしかなりませんが、そこをプラスになる聴かせ方ができるというのが彼の天才たる所以でしょう。

そして恐ろしいことに「IRIS OUT」ではその才能を存分に発揮させているように思えます。

もう溶け込んじゃってます。変な音が滅茶苦茶綺麗に。

音を分解して聴いてみると結構変な音が含まれているのに、全体で聴いた時には一切の違和感がない。異質さに気づかせないというのはある種異常。

 

こんな曲聴かされたら、もう……ね。思わず脱帽して絶望。

 

……具合悪くなりそうなのでこの話はここまでにしましょう。

 

 

そういえば、最近漸く気温が下がってきましたね。長い残暑でした。

 

涼しくなってきたという事で、私の引きこもり生活も遂に終焉を迎えまして、久々にボドゲ会へ参加してきました。参加したというか、家から引きずり出されたという方が正しいですけど。

ボドゲ会というのは私の知り合いの集まりで、名前の通りボドゲをするのが目的です。元々はTRPGをやる為に結成されましたが、最近は専らボドゲをやっています。

月に一、二回ほど不定期に開催されます。

メンバーは十人で、性別も年齢もばらばらという不思議な集まりです。

まあそんな不揃いな集団ですから、全員が一堂に会したことは一度もなく(確か)毎回三、四人くらいのメンバーが入れ代わり立ち代わり集まります。誰も集まらないときとか、八人くらいいる時もありますが。

 

私は滅法暑さに弱いので七、八月の集まりはすべて不参加でした。そしたら友人から「今回はあんたの好きそうなの持っていくから参加しろ」と名指しされたわけです。

 

まあ、さすがに出不精すぎたので渡りに船といった感じですね。

 

そんなわけでせっせこ今回の会場である友人宅へお邪魔しますと、そこにあったのは

 

道尾秀介ボドゲでした。

 

正確にはボドゲというか、謎解きゲームですかね?

 

これです。

 

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年甲斐もなくプレゼントをもらった子供みたいに喜んじゃいましたね。やったーって。

 

見てもらえば解ると思うのですが、これ#2なんです。実は二年ほど前に#1はやっていまして、これがもう面白いのなんの。

 

さすがは道尾秀介

期待を全く裏切らない秀逸なシナリオ、飽きさせないギミック。まるで本物の名探偵になったかのように錯覚してしまうほどでした。

#2が出ているのは知っていたのですが、なかなか手を出す機会が無く。でもずっとやりたいーとは思っていました。

これ、一人で黙々とやるのも良いとは思うのですが、友人と会話して予想しながらやるのが面白いんですよねぇ。推理が繋がった時の興奮が共有できる感覚が良いです。

 

一応どんなもんか説明しますと、かなり精巧に作られた証拠品や資料から未解決事件の真相に迫っていくゲームです。

ただ資料を渡されて漠然と推理させられるようなことはなく、依頼者の手紙によって何を推理すべきかが提示され、進めていくたびに新たな資料が公開されていきます。同時にストーリーも展開されていくので、没入感も凄いです。

動画なども資料に組み込まれているため、事件の容疑者たちが本当に存在しているかのように感じられます。

唯一の欠点といえば、文章量が多いことくらいでしょうか。普段から本とか読んでいる人なら何てことはないと思いますが、慣れてない人だとちょっと億劫かもしれませんね。

難易度も丁度良く、いい具合にミスリードもある。少し値段は高いですが、それに見合う満足感でした。

 

 

そんな作品の二作目という事でこれはもう期待値も爆上がり。

 

メンバーは私含めて四人。とりあえず皆でアヒージョ作ってお腹を満たしてからプレイ開始。

こういう頭を使う謎解きゲームは普通素面でやるものだとは思うのですが、基本的にボドゲ会のメンツは酒飲みばかりですので、ワインで脳みそを浸しながら推理するというセルフ縛りプレイもしつつ。

予想プレイ時間を大幅に上回る五時間ほどで終了。

 

いやぁ……。

 

今回も面白かった!!

 

ネタバレになってしまうので内容については触れられませんが、兎に角楽しい時間をありがとう。もうそれだけです。

 

まだプレイしたことが無い方は是非プレイすることをお勧めします。これをやらないのは普通に勿体ない。ボドゲに興味がない方でも、道尾秀介が好きならやるべきです。絶対に期待を裏切りません。

 

私達みたいに複数人でやんややんや言いながらやるもよし、一人で安楽椅子探偵となるもよし。本当におすすめの一作です。

 

あー楽しかった。

 

 

なんかこうしてみると日記みたいですね。まあ偶にはそんな回もあります。少し短いですが今回はここまで。最後にいつも聞いている曲でも紹介して終わります(恒例)。

 

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人を選ぶほどに深いダークなサウンドを持つNeurofunk。その深さはまさに底なし沼の如し。

こんにちは。

 

今回はまだ話したことのないジャンルについて書いていきます。

 

Neurofunkについてです。ニューロファンクと読みます。

 

何故脈絡もなくNeurofunkの紹介をするのかと言うと……まあ……。

 

特に理由はありません。

そういう気分だっただけです。一応DnBについては以前書いているのでその関係という事にしておきましょう。

このNeurofunkというジャンルですが、非常に人を選ぶジャンルだと私は思っています。何故かと言われるとなかなか言葉にするのは難しいのですが。

ただ、ハマる人はとことんハマる、そんなジャンルでもあります。私みたいに。

なんか本当に個人的なイメージですけど、ダークソウルとか好きな人は好きそうな気がします(偏見)。

今回もジャンルについてつらつら書いていくので、いつも通りめんどくさい話はいいよ、という方は曲だけでも聴いていってください。合うかどうかは解りませんが、とにかく聴いてみなければ始まりませんからね。

 

それでは一曲聴いてみましょう。

 

 

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Neurofunkにおいて絶大な知名度と影響力を持つアーティスト、NoisiaとThe Upbeatsによる一曲。十年以上も前の曲ですがそのかっこよさは決して色褪せないです。

現在のNeurofunkと比べるとダークな雰囲気は若干薄めではありますが、その分機械的というか、SF的なサウンドが強く感じられます。このSF的というのもNeurofunkがその前身から受け継いだ特徴の一つです。

曲自体に複雑な展開はなく、また解りやすいメロディもありません。代わりに力強いビートと重いベースがどっしりと構え、曲を牽引していきます。

 

聴いた方は解るでしょうが、Neurofunkにはわかりやすい盛り上がりやノリの変化というものがほとんどありません。人を選ぶと言ったのはこれが理由です。人によっては単調で退屈な曲に感じてしまう事があるからです。

ですが、Neurofunkにはアーティストによって徹底的に作り上げられたサウンドが有ります。このジャンルで真に目を向けるべきなのは、洗練された音作りの部分なのです。

洗練されたサウンドデザインはNeurofunkが持つダークだったりSFだったりの雰囲気に強く現れます。

その辺りに着目してもう一曲聴いてみましょう。

 

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Neurofunkでは有名なアーティスト、Billainの一曲です。

電子的な音が多く使われており、ドラムの音も深いです。総じてシネマティックなサウンドの印象ですね。特に中盤、ドラムが無くなってからの展開はまるで映画のSEのようです。

とにかく使われている音の一つ一つに拘りが感じられます。NeurofunkらしいSFチックで硬質なサウンドを徹底して作り上げています。そのおかげで全体的に引き締まった雰囲気が有ります。

 

どうでしょうか。曲として楽しむのはもちろんですが、音の一つ一つを楽しむことができるのもNeurofunkの面白い所ですね。

 

そんなNeurofunkですが、ジャンルとしてはDnBのサブジャンルです。DnB自体はジャンルとしてかなり幅が広いので、一口にDnBと言っても色々あります。Neurofunkはと言うと、硬派なTechno寄りのDnBから派生していきました。

まあそれは聴いた感じ何となく解ると思います。同じフレーズやビートを何度も繰り返す感じはまさにTechnoといった感じですね。

NeurofunkはTechstep(テックステップ)から影響を受けて派生しました。Techstepもまた名前の通りTechnoの影響を受けています。また、ダークでSF的な雰囲気を持つジャンルでもありますので、その辺りがNeurofunkにも引き継がれていったわけですね。

 

ちなみに、同じDnBのサブジャンルでありながらfunkと付くことから、よくLiquidfunk(リキッドファンク)と並んで挙げられるのを目にしますが、音楽としては全くの別物です。

Neurofunkがダークなのに対してLiquidfunkはライトで聴きやすいです。実は今まで紹介したアーティストの中にもLiquidfunkを作っているアーティストはいました。ただ本人がそう名乗っていないので、こちらもそういう言い方はしませんでした。

というか、LiquidfunkやNeurofunkは割と音楽としてコアな部分が有る印象です。なのでわざわざそんな名乗り方はせず、普通にDnBアーティストとして活動したり曲をリリースすることが多いですね。

まあその辺りは聞き手にとってはどうでもいい話です。

Liquidfunkについてもいつか書くと思います。いつになるかは解りませんが。

 

ストイックでありながら怪しげなサウンドで構成されるNeurofunkですが、このジャンルはハマるハマらないが如実に出ますので、どれだけ言葉を尽くしてもあんまり意味は無いです。なので短いですが今回はここまで。

とりあえず何曲か聞いてみて、ハマった人は是非自分で調べてみてください。

最後に私のおすすめを紹介して終わりにしましょう。

 

 

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Black Sun Empire & State of Mind という、これまたNeurofunkでは名の知れた二人による一曲。この曲ではボーカルが採用されているが、アーティストによっては積極的に取り入れられていることもある。

 

 

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最近の曲の中では一番気に入った曲。ダークな雰囲気なのはもちろんだが、オリエンタル系というか、呪詛的な意味での暗い雰囲気を感じる。こういったサウンドもまた面白い。

 

 

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SF感満載で怪しげ。これぞNeurofunk、という曲。徹底して硬質なサウンド、シネマティックなシンセで作り上げられる空間は、Neurofunkでしか味わえない。

 

 

は~。

かっこよ。聴いているだけで自分もシンセを弄りたくなってきます。なんというか、創作意欲が掻き立てられますね。

しかし、今回Neurofunkについて書くにあたって、久々に曲を解析してみましたが、とにかく深い。というか、音作りの面白さが詰まったジャンルですね。メロディーよりも音。職人気質なジャンルですね。私ももっといろいろ聞き込んでみることにします。

 

 

漫画の紹介と感想。愛があるから受け入れられる残酷な結末もある。市川春子「虫と歌」

こんにちは。

 

今回は漫画紹介です。

 

今まで何度も紹介してきた短編集「虫と歌」より、ついに表題作の『虫と歌』です。

 

 

結局収録されている作品の四分の三を紹介してしまいました。それだけ私にとっては大切な短編集という事ですね。どの作品も素晴らしいのは間違いないですが、「虫と歌」は市川春子氏のデビュー作です。なので特に重要な作品といえますね。

以下はあらすじです。

 

高校生のうたは、新種の昆虫作りという不可思議な仕事をする兄、妹のハナと三人暮らし。そんな兄弟のもとに、ある夜人型の虫が現れる。それは過去、実験によって生み出された失敗作であった。

時期が来るまで保管のために海に沈められていたその虫は何らかの拍子に目を覚まし、作り手、言わば親と言える兄の元に帰ってきたのであった。虫はシロウと名付けられ、兄弟は彼を家族に迎え入れる。

シロウはうたに良く懐き、うたもまた彼の世話を焼く。手のかかる弟のような彼は次第に生活になじみ、言葉も話せるようになっていく。新たな家族との生活はこれからも続いていくかのように思われたが……。

 

こんなお話です。

短編集のテーマでもある「人と人ならざる者の愛」ですが、今回は人型の虫との家族愛という事ですね。

この作品の結末は読んでいる最中、何となく予想がつくくらいには解りやすい伏線が張られています。恐らく作者自身も予想されるのは想定しているのではないかと思います。

読み手は段々と、「あれ、これってもしかして……?」と思いはじめ、ラストは「やっぱりね」となります。展開に意外性はありませんが、それはこの作品において必要なものではありません。

結末を主人公のうたがどのように受け入れるのか。それがこの作品の一番重要な部分で、カタルシスです。

なにより市川春子のセンスにより描かれる圧巻の描写の前では、たとえわかっていたとしても心を揺さぶられてしまいます。

この物語はとても残酷で悲しい終わりですが、その分、ラストの会話に込められた家族愛はとても暖かく印象に残ります。しかし、それだけで終わらないのもまた市川春子の素晴らしい表現力を示しています。

 

ネタバレのため曖昧な言い方しかできませんが、本当に一度読んでもらいたい作品です。短編なのですぐに読めますし、他の収録作品も、何度も紹介してしまうぐらいに面白いです。

まさに市川春子という稀有な漫画家の入門に相応しい作品ですので、気になった方は是非手に取ってみてください。

 

 

 

 

 

ここからはネタバレ有りの感想になります。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

読み終わってからは暫く頭から離れない作品でした。

擬態と言うには、うたはあまりにも人間過ぎましたね。彼が自分自身の正体を疑い始めてからの葛藤、そこから最後の台詞

 

「生まれてよかった」

 

にたどり着くまでの心情を考えると熱く込み上げてくるものが有ります。果たして自分が同じ状況だったとして、恨み言一つ言わずにいられるかと言うと自信が無いです。

なんせ人間ですからね。特に家族相手だったら、余計口にしてしまいそうです。

 

うたが最初に自分を疑い始めたのは、夏休みの終わり頃。恐らくですが、この頃はまだそれほど深刻には捉えていなかったように見えます。それは寿命が近いことを知らかったからです。

別に自分が虫であったとしても色々思う所はあったでしょうが、まだ死ぬこととは結びついていません。だから「俺 虫より速いんだぜ」と軽く言ったり、大学に行きたいと未来への展望を語っていたのでしょう。

また、兄が大学へ行くことを認めたことに、彼の愛と祈りが感じられます。彼からすれば寿命はもう近いことは解っていたはずです。ですが彼はそれを無視し、一人の人間としてうたに許可を出します。

それは同時に、うたが大学に行けるまで、願わくばもっと生きていてほしいという祈りでもあったのでしょう。

 

シロウの最期はこの作品にとってもうたにとっても、重要なシーンです。

うたはシロウが寿命であることを兄から聴きますが、ここで自身の寿命も近いことを悟ります。彼は自分とシロウが本当に兄弟であることを薄々察していたのですね。

兄からほぼ同い年であることを聴いており、背も体重も同じ。なにより海の底の景色を見たような気がする。

シロウの方はうたと会った記憶があるから兄弟だとわかっていて、「同じ」という言葉を使います。そうしたシロウの態度も彼に確信を与えるきっかけの一つだったのでしょう。

自分とシロウが兄弟ならば、同じように寿命も近い。そう思うのは自然ですね。

うたにとって自分が虫であることを認めるというのは、死期が近いという現実に向き合う事になります。だからうたは、解っていてもシロウに「俺たちは本当に本当の家族だ」と言ってあげることが事ができませんでした。

 

そんなうたが自身の終わりを受け入れた切っ掛けもまたシロウの最期でした。うたは、「シロウは寿命のことなど知らず俺の与えた傷のせいで死ぬと思っている」と考えます。実際どう思っていたかは解りません。しかしうたにとってはそれが事実でした。

それなのに恨み言一つ言わない。恐らくそれは、うたがシロウをちゃんと愛していたから。「ずっと海にいなくてよかった」というセリフからもそのことは伝わってきます。

シロウは愛ゆえに、自らの最期を穏やかに受け入れたのです。

 

それを間近で見たうたもまた、自分の運命を受け入れます。

 

うたが残酷な結末を穏やかに受け入れられたのは、本人も言っている通り兄がちゃんと愛してくれていたから。

シロウと「同じ」ように、愛ゆえに。

 

うたの最期は、悪くなる視力を表しているかのように描かれます。現在のうたの周りに描かれるものは極端に少なくなり、余白が目立つようになります。そして最後のコマはセリフだけです。

これは彼がもう、何も見えなくなってしまったことを表しているのかもしれません。ですが、その瞬間に口から出た「生まれてよかった」には、いかに彼が愛されていたのかが込められています。

 

 

この作品の登場人物たちは、優しい人ばかりです。だからこそ残酷な結末がより重く、しかしそれだけではない「何か」を読み手に残してくれます。

 

うたが最期を迎えてもこの作品はまだ終わりません。

静かになった家で作業する兄が描かれますが、そのことはあまりにもあっさりとハナも居なくなったことを表現しています。

その後兄の独白がラストを飾りますが、あまりにも救いがない終わり方です。

独白では、晃と友の研究に対するスタンスの違いが垣間見えます。この二人の研究者は普通の人間ではないことが随所に散りばめられた情報から推察できます。

友の登場シーンでは後光が差しているかのように描かれていますし、シロウの死後、彼の遺体が友の影に覆われた後一切描写されなくなることから、異質な存在であることが伝わってきます。

とても無機質で冷たい印象を受ける友ですが、その印象は間違いではなさそうです。

晃は独白で「おまえにとってはたかが昆虫実験かもしれないが」と語ります。明確に友の名を出しているわけではないですが、該当する人物が友しかいないのは明白です。

友とうたやハナは面識が有るので、それなりに交流があったはずです。そしてその最期も、シロウを看取ったように見届けたはずです。そのうえで「たかが昆虫実験」と考えるのは、あまりにも情が有りません。

あくまで晃の独白なので本当にそう思っているかは解りませんが、それまでの登場シーンからは本当にそう思っていそうな不気味さが伺えます。なので、大方間違ってはいないのではないでしょうか。

そんな友に対して、同じ存在でありながら晃はかなり情が深いです。それはうたの人生によって証明されていますね。

彼は実験対象に本物の愛を与え続けます。実験が続く限り何度も何度も。

まさに地獄です。

もう終わりにしないか、とは思うものの口にしないのは、恐らくそれができないのが解っているからです。友は許さないでしょうし、それまで死んでいった子たちの意味が無くなってしまうから。

晃の地獄はこれからも続いていく。

うたの最期で物語を終わらせず、こんな残酷な描写で終わらせる所に市川春子の卓越したセンスを感じます。

 

こんなに救いのない終わりなのに、読了感はそんなに暗くありません。

それは、この作品の「愛」がとても輝かしいものだからです。晃は愛があるがゆえに苦しみますが、うた達は愛があるゆえに救われます。

彼らが残酷な結末を受け入れられるだけの輝かしさが「愛」には込められているのです。うたの人生を通して見たそれが、この作品をただ悲しいだけの話にはしないのでしょう。

 

私も最期の時には生まれてよかったと言えるように生きたい。改めてそう思わされる作品でした。

 

 

小説みたいに紡がれる生活の詩。澤田空海理の優しくて切ない音楽で感傷に浸る。

こんにちは。

 

今回はアーティスト紹介です。

 

いつも通り詳しい経歴とかジャンルだとか難しいことは置いておいて、アーティストに対する個人的な感想みたいなものを書いていきます。

ですので、まあ。

そういうのに興味ない方は曲だけでも聴いていってください。音楽は兎に角聴いてもらうことが第一ですからね。

 

さて、今回紹介するアーティストは澤田空海です。空海理でそうりと読むらしいです。この名前は本名らしく、何だか最近のアーティストらしい感じがしますね……。

この方はもともとrisouという名前でボカロPをしていました。その後Sori Sawadaという名義で本人歌唱、もしくはゲストボーカルを起用した曲を作り始めます。そういう変遷を経て現在では本名で活動しているのですね。

 

とりあえず一曲聴いてみましょう。音楽は言葉より雄弁にそのアーティストのことを教えてくれますからね。聴いてなんぼです。

 

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澤田空海理の代表曲です。誰かの切実な内面が切り取られた、切なく流麗な歌詞を優しい曲調が包んでいます。盛り上がる曲ではなく、しんみりと聞き入る曲ですね。

曲の中に聴きなじんだ生活音が取り入れられることで、何とも言えないリアルさが生まれています。ボーカルも激しいわけではないのに力強く、感情が痛切に伝わってきます。

 

この曲は様々なアーティストによってカバーされSNSでも人気を博していますので、どこかで聴いたことある方も居るのではないでしょうか。

もともとボカロ曲として発表されました。そちらとはアレンジが違うので、聴き比べてみるのも面白いでしょう。個人的にはボカロ版の方がアレンジは好きですが、本人歌唱版のボーカルが滅茶苦茶良いのでどちらも甲乙つけがたいですね。

そういえば、彼は近年では主流となっているボカロPからのアーティストですが、他の同系アーティストとはちょっと違う所が有ります。

他の人たちはボカロP時代に明確なヒット曲、所謂ミリオン曲を持っていることがほとんどです。しかし、澤田空海理にはそれが無く、むしろ自らカバーしたバージョンが爆発的にヒットしています。

そんなわけで、意外と彼がボカロPをしていたことを知らない人も多いみたいですね。実は私もその一人でした。まあ、別にだからどうという事もありませんが。

 

さて曲を聴いた方なら解るでしょうが、澤田空海理の特徴と言えばやはりその瑞々しい歌詞に尽きるでしょう。

実在する誰かの心象風景をそのまま切り取ったかのような歌詞は実に叙情的で、まるで小説を読んでいるかのようです。別れや後悔、どうしようもない悔しさや遣る瀬無さが独白のように描かれ、聴く者の心を震わせます。

ここまでストレートに心を揺さぶる歌詞が書けるアーティストはなかなか居ませんね。歌詞を意識しながら一曲聴いてみましょう。

 

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私の大好きなアーティストwhooとの合作です。

思い出を語るように優しく紡がれる歌詞が兎に角美しいです。後半になるにつれて次第に感情が高ぶるかの如く音楽も盛り上がり、ボーカルもより切なく感傷的になります。

歌詞の情景描写は、別れた二人の生活が本当に存在していたように錯覚してしまうほどに繊細で緻密です。単純に美しい歌詞と言うだけではなく、メロディに乗った時のリズミカルさも注目すべき点ですね。

飛び切りの切なさの中に少しの暖かさを感じるのは、このリズミカルなメロディが関わっているように思われます。

 

どれだけ言葉を尽くそうと澤田空海理の紡ぎだす美麗な歌詞を説明するのは難しいですね。

私見ですが、彼の歌詞はどうにも後ろ向きに思えます。しかし曲が暗くならないのは、全体的に優しい音で構成されているからだと思われます。あまり重々しいサウンドは採用されておらず、煌びやかな音色が使われている印象が有ります。

サウンドは明るく、歌詞は少し暗く。これによってほろ苦い爽やかさが曲として作り上げられているのではないでしょうか。

 

しかし、澤田空海理のこれほど繊細な言葉選びはどのようにして形成されたのか。どうやら彼が影響を受けたのは小説や漫画であるらしく、いくつかの作品が語られていました。

漫画の方は寡聞にして存じませんでしたが、小説の方はどれも読んだことが有りました。中には私にとっても印象深かった作品もあって、この作品から影響を受けたというのは何となく解るなぁという感じでした。

川上弘美よしもとばなななんかは特に、男女の関係の書き方に対するアプローチから近しいものが感じられます。まあ感覚的なものなので的外れかもしれませんが。

素晴らしいアーティストはやはり読書家の方が多いイメージが有りますね。米津玄師やヨルシカなんかもそんな感じですし。例に漏れず澤田空海理も読書家のようです。私ももっといろいろ読んでみるべきですね。

 

さて、少し短いですがこれ以上私が言葉を尽くそうとも蛇足にしかなりませんので、今回はここまで。

何曲か紹介して終わりにしましょう。

 

 

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同じくニコニコ出身で活動するアーティストちょまいよをボーカルに迎えた一曲。この曲はストーリー性がより強く、悲劇的な雰囲気が広がっている。サビの悲痛な叫びのような激しさが印象的。

 

 

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サウンドの暖かさが強い分、歌詞に含まれる遣る瀬無さも強く感じられる。思わず口から出たみたいに流れ過ぎていくサビが切ない。泣き声だったりと最後の最後まで徹底して作り込まれた雰囲気がいい。

 

 

 

沁みる……。

澤田空海理は歌詞に引力のある稀有なアーティストですね。まだまだ素晴らしい曲は沢山有りますので、気に入った人は是非調べてみてください。エモーショナルな気分に浸れること間違いなしです。